名劇SSブログ

世界名作劇場の二次創作SS(ショートストーリー)ブログです。

クロスグリのパイ



小説投稿企画「scriviamo! 2017」掲載用作品








「さあさあ!皆々様方!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!お代は見てのお帰りだよ!」

「奥さん!これ、新しい鍋、どうだい!まけとくよ!」

小さな村に響き渡る人々の声、どっと押し寄せる観光客の波、その観光客をひとり残らず逃すまいと露店の主人たちは躍起になる。

ここはジメイ村と呼ばれる小さな村、毎年春になるとこうしてお祭りで賑わうのだ、祭りの名はキノコ祭り、キノコの森と呼ばれる大きな森に囲まれたこの村は、その森で採れるキノコが名産、その稼ぎで村は成り立っていると言っても過言ではない、その森に感謝の意を捧げるべく、こうして春になると祭りを催すのだ、もちろん、目的はそれだけではない、祭りで観光客を呼び込み、お金を落としてもらうのが目的でもある、そのため、宿や定食屋の料金がこの時だけ値上げされる、それを知ってか、お祭りのとき、村の人は店で食事をしない。

人々が押し寄せ、まるでごった煮状態の小さな広場に、ラッパの音がけたたましく鳴り響いた、このお祭りの一番の目玉である、品評会が開かれるのだ、その品評会には様々なものが出展され、その中でも注目を浴びているのが、ひとりの青年が彫った木彫りである。

若干12歳で優勝を飾り、参加する度に何かしらの賞を掻っ攫っていく、まさに天才という名に相応しい仕事をする、その少年も16歳になり、落ち着いた風貌と、風に優しく揺れるその柔らかい黒髪が、この村に住む主婦たちの心を掴んでいた。

その青年の名はケント

「どうも村長さん、今回も参加します、宜しくお願いします」

ケントは品評会の主催である村長にその木彫りを渡すと、悠々と露店を回っていた

「さて…どうしようか…、何か食べようかな…、でも高いしなぁ…」と小首を傾げながら歩いていると、後ろから「ケントー!」と、可愛らしい声が飛んできた

「あれ?…メグじゃないか」

「ケント!、もう探したんだから」

息を少し切らせながら、バスケットを抱えて駆けてきた少女、名前はメグ、金褐色の髪をポニーテールにし、頬に少しソバカスがあるが、笑顔が似合う可愛らしい女の子だ、この春に11歳を迎えたばかりで、村長の娘でもある。

「メグも来たの?、どうしたんだいそんなに慌てて」

「来たの?…じゃないわよっ!、毎年応援しに来てあげてるじゃないの、ねえお腹空いたでしょう?、パイを持ってきたの、ここは騒がしいから…森の原っぱで食べましょう?」

「そいつは助かった、もうお腹空いちまって、いつも悪いね」

「いいのよ、さあ行きましょう?」

「うん!」

ケントはメグが持っていたバスケットを持ってやると、その、森の原っぱへと向かった。

森の原っぱは二人が小さな頃から遊んでいる場所で、キノコの森の中に少しだけ入ったところにある、村の住民も知らない、二人だけの秘密の場所だ。

木々に囲まれたその中に、ぽかんと小さな原っぱがある、メグは幼いころからケントを相手に、おままごとをして遊んだ。

「はいどうぞ、パパ」

「はい、ありがとう…って、おままごとやるの?」

「雰囲気よ、雰囲気、さあどうぞ召し上がれ?」

「そんじゃ遠慮なく、いっただっきまーす!」

がぶりっとパイにかぶりつくケント、メグ特製のクロスグリのパイはケントの大好物でもある。

「あむっ…むぐむぐ…」

「どう?美味しい?」

「むぐむぐ…うん!美味しい!、相変わらず美味しいな~、メグのパイ!」

「ホント?…ホッ…良かった、クロスグリのジャムを作るときね、ちょっと焦がしちゃったの、まあどうせケントが食べるんだしと思って持ってきたんだけど、良かった」

「…むぐむぐ…、どうせって何だよそれ…ヒドイよな、そしたらアレだ、僕が全部食べちまってもいいんだな?」

「それはダメっ、全部食べちゃイヤなの、私も食べるの」

「なんだよそれ~」

ニコニコと笑顔であふれる原っぱ、やがてそのパイを食べ終え、満足そうに横たわるケント、そんなケントにメグは微笑みを向けると、懐中時計で時間を確認した。

「あら…もうすぐ品評会の結果が出るわね、ほらケント、そろそろ行かないと、表彰式に遅れちゃうわよ?」

「もうそんな時間か、あぁでも…今回も優勝するって決まったわけでもないよ」

「なに言ってんのよ、品評会に出したんだから、たとえ選ばれなくても表彰式には出席しないと、それに、私はケントが一番だって信じてるもの」

「メグ…」

「ねえ、今度はどんな木彫りを作ったの?」

「うん、アライグマを彫った、結構よく出来てる」

「アライグマ?わあっ!きっと可愛いわね?、さあ行きましょう?、早く早く!」

ケントは「はいはい」と身を起こすと、メグに手を引かれながら村の広場へと向かった。






二人が村の広場へやってくると、既に品評会を見ようとする人でごった返していた、ケントはメグに少し強引に手を引かれながら、その会場に行くと、様々な工芸品が舞台に並べられているのが見えた。

「さて…と、僕の木彫りはどこか…な」

舞台に目をやり、自分の木彫りを探すケント、しかし、ケントの目は自分が彫った木彫りを見ようとしなかった、舞台にある台座の、それも一番目立つ場所に、誰のものかも分からない初めて見る木彫りがそこにあった、その木彫りは大鷲を彫ったもの、雄々しく翼を広げ、眼光鋭く、今にも飛び立ちそうな、まるで生きているかのように見えた。

「なんだ…あれは…」

ケントの目に映ったその大鷲は、黄金色に輝いて、まさに羽ばたこうとしていた、その圧倒的な迫力に気圧されたケントは思わず「うわっ!」という声を上げてしまったのだ

「きゃっ…どうしたの?…ケント」

「え…あぁ…いや、なんでもない…なんでも…」

そんなケントに首を傾げるメグであったが、やがて村長が舞台の登壇に上がると、村人の歓声に紛れて「お父さーん!」という声を上げて笑顔を爆発させた。

「静かに!静かに!」という村長、コホンとひとつ咳払いをして「ええ…皆々様方」という長い演説のあと、品評会の結果が発表された。

「第三位、素敵なパッチワークを出品して下さったコンスタンス夫人」

男達の「おおーっ!」という歓声が巻き起こる、コンスタンス夫人とは、この村一番の美人主婦、実はメグの母親である。

「次に、第二位、壮大な風景画を出品して下さったマーチ卿」

村人の歓声に、どうだと言わんばかりにふんぞり返るこの老人は、村一番の大金持ちで、絵画を得意としている。

「ではいよいよ…優勝者の発表です」

村長の言葉に村中の人が静まり返る、メグはケントの手を握って微笑むと
「きっとケントよ、間違いないわ?」と自信たっぷりに頷いた。

「あぁ…そうだね」

しかし、ケントは確信していた、選ばれるのは自分じゃない、沈みゆく自信と、暗い影を落とす心に精一杯背を向け、メグの手を握り返した。

「優勝者は、大鷲の木彫りを出品して下さったウキョウ殿」

村中がどよめく、今年もケントが選ばれると思っていたからだ、しかも、優勝者の名は誰も聞いたことがないのだ。

村人は舞台に視線を集中させた、しかし、一向にその優勝者が姿を現さない、村長はコホンと咳払いをすると、その説明を始めた。

「ええ…皆さん、優勝したウキョウ殿は会場には居りません、代理で私が出品したのです、彼は山を越えた向こうの、えぇ…ヤコイ国のポリン村に住んでおり、今回どうしても出品したいとのことでして、私が代理で出品したと、こういうわけなんです、ええ…では、表彰式を始めたいと思います…」

村長の言葉はもう既にケントの耳には入っていなかった、優勝を逃したのは悔しいが、選ばれなかったのはもっと悔しかった、ケントは小さな微笑みをメグに向けると、手を離し、ひとり歩き去っていく。

「ケント…!、待って!」

メグの呼び声も空しく、表彰式を見ようと舞台に人々が押し寄せた、村人の目的はただひとつ、コンスタンス夫人の煌びやかな姿だった、その人波に押される格好で、メグは舞台の間近に来ていた。

「っ…もうっ!どいてよ!」という声も歓声にかき消され、すぐ前に居る人にも届かなかった、しかし…

「そうだわ!舞台の下ってなんにも無いわよね!」

ぐっと身を屈めて舞台の下をスルリと抜けると、その舞台の裏からケントが向かった場所を目指した。

「きっと…あそこだわ…」

二人は小さな頃からの幼馴染、メグにとってケントは年上のお兄さん、ケントの後ろをちょこちょこと追いかけてきたメグにとって、ケントがどこに向かうかは大体の見当がついた。






「やっぱりここだったのね…」

メグが向かったのは村から離れた小さな川の岸辺だった、そこは人も滅多に来ず、ひとりになるには恰好の場所だった、ケントは何かあると、ここで物思いに耽る。

「ケント…?」

「…!、メグ…」

「やっぱりここに居た、イジケるとここに来るわよね?知ってるんだから」

「イジケてなんか…、すげえモンを見たんだ…メグも見たろ?、あの大鷲の木彫り…」

「ええ、見たわ?、あんなのがどうしたっていうのよ、私はケントが一番だって思ってる」

「……でも…」

塞ぎこむケントの横に、ちょこんと座るメグ、膝を抱えて、優しい微笑みを浮かべながらケントの横顔をじっと見つめた、しかしケントは緩く流れる川面を眺めるばかり、そして、顔を上げると、大きな溜息を心の底から吐いた。

「もう…なによ、イジケてんじゃないの、ねえ、村に帰ろう?、お腹空いちゃった、何か食べようよ、そうだ、ウチに来なよ、お母さんがきっと何かご馳走作ってるわ?」

「いや…いいよ…、僕は小屋に帰る、メグも家に帰りな」

「何でよ…」

ケントはキノコの森にひとりで住んでいた、村の人からは木彫り小屋と呼ばれており、そこはまるで小さな物置小屋だったのだ、そんなところに帰るケント、メグはそれをとても寂しく思った。

「いいからウチに来なさいよ、何かして遊ぼうよ、そうだ!カードやらない?、可愛いの買ってもらったの、ウサギの絵が裏に描いてあってね…」

「いいから放っといてくれよ!、少し考えたいんだ!」

「ケント…何よ、心配してんのに…!」

メグは勢いよく立ち上がると、ケントを悲しそうに睨み、そして走り去っていった、メグの瞳には大粒の涙が溢れ、それを見たケントは止めようとしたものの、声をかけられずにいた…

「思えば僕…相談相手…、メグしか居ない…」

ケントは赤ん坊の頃に、この村に両親と移住してきた、しかし幼い頃、その両親は事故で他界、馬車が川に転落したのだ、村には孤児院などなく、今の村長が不憫に思いケントを育てた、つまり、メグの家族はケントの育ての親でもある。

小さな頃から一緒に育ったケントとメグ、子供の頃に森で遊んでたとき、偶然にその木彫り小屋を見つけたのだ。

そんなことを思い出しながら木彫り小屋に帰って来たケント

「悪いこと言っちまったな…どうしよう…」

夕暮れが迫る森の中、既に暗闇が支配していた木々の世界に、ぽつり、また、ぽつり、と、雨が落ちてきた。

「あんなに晴れてたのにな…」

木彫り小屋に小さく、薪ストーブの火が灯った。






バシャりバシャりと暗い森に響く足音、木彫り小屋の前まで来ると、頭の上に咲いている赤い傘を少し眺め、それを畳み、ぽいっと小屋の影に投げて隠した、暫く雨に身を濡らしたあと、その小屋の扉を…

ドンドンドン!

勢いよく叩く

ガラッとその扉が開かれると「メグ!…どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか!」と、ケントの声が飛んできた。

「うん…ちょっと濡れちゃった、これを返そうと思って…」

メグの腕にはケントが彫ったアライグマの木彫りが抱えられていた。

「メグ…、寒いだろ?風邪ひくといけないから…中に入んな、ほらほら」

「うん、ありがとうケント…」

タオルで濡れた髪を拭くメグ、ケントはアライグマの木彫りをじっと眺めていた。

「ねえケント?」

「…うん?」

「うん?じゃないでしょう?、私ずぶ濡れなのよ?」

「うん…だからタオルで…、…あぁ…そうか…、僕の服で良かったら着るかい?」

「ええ…お願い…」

ケントは洋服入れの木箱から適当な服を身繕い、それをメグに渡した。

「こっち見ちゃイヤよ?」

「分かってるよ!見ねえよ…」

メグに背中を向け、座りながら木彫りを眺めるケント

「大鷲の木彫りに比べると…貧相だべな…」と、声を漏らす

「何が貧相なのよ…見たわね?エッチ」

「な…何を言ってんだ!見てねえよ!、木彫りを見てたんだよ…」

「ふ~ん…」

ケントの背中から木彫りを覗き込むメグ、その背中にもたれかかるようにして身を乗り出すと、アライグマの木彫りを眺めた。

「よく出来てると思うんだけどな~…みんな見る目が無いのよ」

「もう…そうだ、お茶煎れてやるよ、それで温まりな?」

「うんっ♪ありがとう」とメグはひょいと身を起こした、そして「えへへぇ…」と、恥ずかしそうにポーズをる、その姿を見たケントは、茫然としつつも、笑いを吹き出してしまった。

「あっははははっ!なんだメグ!ぶかぶかのダボダじゃないか!あはははっ!」

「な!なによ!アンタが寄こしたんじゃない!、もう!失礼しちゃうわね!」

「いやぁ…わりいわりい…、お茶煎れるよ、ちょっと待っててな?」

ケントは薪ストーブのところに向かうと、ヤカンに水を入れてお湯を沸かす、火が小さいことを確認すると、ふと、手に持っていたアライグマの木彫りに目を向ける。

「まあ…いいかな…」

フッと小さく肩を落とし、その木彫りを薪ストーブに投げ入れようとしたが…

「だめ!」

メグが突然声を上げ、ケントの腕にしがみついた。

「だめ…だめよ…、可哀想なことしないで!」

「メグ…」

「可哀想…、ケントが…可哀想…!」

「……メグ…」






お茶を煎れ、黙って過ごす二人、雨も弱くなったのか、屋根に落ちる雨音がいつの間にか聞こえなくなっていた。

「その…済まなかったな…メグ…、ごめんよ?」

「え?…もういいのよ?、気にしてない、笑うのはちょっとひどいと思うけどね?」

「いや…違う、その…それもそうなんだけど、乱暴なこと言っちまった…」

「……いいの、私もしつこかったから…、あ…そうだ!」

「え?どうしたの急に…」

「お父さんに呼ばれてるんだった!」

「ええっ!?」

「お父さんからね?、ケントに木彫りを返すついでに呼んできてって頼まれてたの、すっかり忘れてた!」

「なんでもっと早く言わないの!ほら、早く行くよ!」

濡れた道を走るケントとメグ、メグが懐中時計で時間を見ると、夜の七時をとっくに過ぎていた。

「これは怒られるわ…盛大に怒られるわ」

「大丈夫、僕が引き留めてたって言うよ」

「ケント…」

二人は一生懸命に走り、やがて村長の自宅へと着いた。

意を決してドアノックを叩くケント、暫くして、玄関のドアがガチャリと開かれた。

「おや?ケントじゃないか…遅かったな、メグは?」と、村長が顔を出し、手を腰に当てながらケントに問いかける。

そのケントの背中からひょこっと顔を出すメグ

「えへへ~、遅くなっちゃった、ゴメンね?」

「はあ…まあいい、入りなさい、私は良いが…母さんカンカンだぞ?」

「うわぁ…お母さん怒ると怖いのよね…」と、ケントの後ろに隠れるメグ、家に静々と入ると、その廊下の先で既にその母親であるコンスタンス夫人が仁王立ちしていた。

「こら!メーちゃん!、ちょっとこっちに来なさい!」

メーちゃんとその夫人は呼んだ、この家では夫人だけがメグをそう呼ぶのである。

「きゃっ…助けてケント」

「ええと…」と頭を抱えるケントに、コンスタンス夫人から声が飛んだ。

「ケンちゃん!、メーちゃんをこっちに寄こしなさい、でないとケンちゃんも…分かってますわよね!」

それはケントも同様であった、ケントはメグの母親からケンちゃんと呼ばれているのである、そしてケントも…

「母さん…そりゃあ…ないよ」と、母さんと呼ぶのだ、木彫り小屋に住んでいても、ケントとこの一家は家族も同然であった。

ケントは夫人に歩み寄ると、自分が引き留めたのだから、メグをどうか許してやってほしいと懇願した、夫人は仕方ないという素振りを見せつつ…

「明日からトイレと廊下の雑巾がけを一週間、お願いね?…ケンちゃん♡」と、優しく微笑むと、台所へと消えていった。



一連の騒動が終わり、夕食も頂いて満足したケント、そんな彼に話しがあると言って、村長は事務所兼自室へとケントを迎えた、当然のごとく、しれっとメグも同席する。

「それでな…ケント、今回の品評会は残念な結果に終わったわけだが…どうだね、あの大鷲の木彫りを見た感想は」

「はい…、とても素晴らしく…まるで生きているかのような、見事な出来栄えでした」

「うむ…、そうだろうな、私も最初見たときは素晴らしく感動したよ、ケントの木彫りも立派だが…、そこでだケント、ウキョウのところへ修行に出てみんか?」

「修行に?…そんな…」

「いやぁ…急な話しで悪いとは思うんだ、ああ…でもな、ケント、お前には才能がある、その才能をウキョウも買ってるんだよ」

「え…?それは…どういう…」

「うむ…、実はな、ウキョウは私の知り合いでな、品評会を見物しに来たこともあるんだ、そこでケントの木彫りを見て、随分と気に入っていたよ、彼が住むヤコイ国はな、海に面していて、様々な国から色んな人々がやってくる、その中でポリン村は芸術の都と呼ばれるぐらい評判でな、その村に住むウキョウは彫刻家として名を馳せている、しかし…後継者が居ない、そこで…私がケントを紹介したんだ…」


伸ばせる才能を埋もれさせてはいけない、彼の作品を見て、何か共鳴するものがあれば、考えてみてはくれないだろうか…


ケントは木彫り小屋に帰る道を歩きながら、村長の言葉を頭の中で繰り返していた

「それじゃあ…私はここまでね」

村の広場まで来ると、メグはケントに声をかけた、その声に、ふと、顔を向けるケント。

「もう…私の話し聞いてなかったでしょ」

「ゴメン…なんだっけ…」

「明日十時に、丘の上にあるノコタ城の庭園でピクニックしようって言ったのよ」

「あぁ…明日?…うん、いいよ?」

「えへへ…よかった♪、それじゃあ広場で待ち合わせね、またね?」

メグはイタズラっぽく微笑むと、投げキッスをして、スキップをしながら家に向かう、少しして振り向くと、もうそこにはケントの姿はなかった…

「……」

無言で振り向き、家へと全力で駆けていくメグ

玄関のドアから飛び込むようにして家に入ると、階段を駆け上がって真っ先に自室へと籠った、そして、フェルトと糸を裁縫箱から取り出すと、綿を小物類から抜き出してかき集め、一心不乱に縫物をする、風呂もそこそこに縫い続け、それが縫いあがる頃にはとうに真夜中を過ぎていた。

翌朝、ベッドから飛び起きると、時刻は朝の九時前、「きゃあっ!」という素っ頓狂な声に窓辺の小鳥達も一斉に何処かへと飛び去って行った。

ドタドタと階段を下りると、台所のテーブルで食後のお茶を楽しむ母に「なんで起こしてくれなかったのよ!」と文句を言うと

「何度も起こしましたよ?」と、涼しい顔で言われてしまった。

「早く早く…急がないと…」洗面所で髪を整え、「早く早く…どれがいいかな…」と髪にリボンを結び、「よしっ、これで…」スカートをヒラリとひるがえし「バッチリオッケー!」と玄関を飛び出す。

しかし…

「ああっ!」と玄関先で立ち止まると、自室に飛び込み、机に置いてあった小さな包みを、手の平に包み込こんで優しく微笑みかける、そして急いで台所に飛び込んだ。

「お母さん!…えっと…その!」

「はいはい、残りもんで良ければバスケットに包んであげるから、持っていきなさい?」

「ありがとうお母さん!愛してる!」

「はいはい、いいから早く行っといで」

「行ってきます!」






広場でベンチに座りながら景色を眺めるケント、お祭りのときとは一変して穏やかな時間が流れていた、人の通りも少なく、たまに観光客がパン屋に入っていくぐらいだ。

「今日も天気が良いなぁ…、日差しも暖かいし、………」

少し目を伏せ、地面に視線を落とすと、「遠いよなぁ…」と肩を落とす、そんなケントに元気で可愛らしい声が飛んできた。

「ケントー!」

「メグ…」

「はあっ…はあっ…、…はあぁぁ…っ、ゴメン、待った?」

「いや、…さては寝坊したな?」

「えへへぇ…、さあ、行きましょう!」

「うん」

暖かな日差しに包まれながら歩くメグとケント、すれ違う人もなく、遠くでさえずる小鳥の声を聞きながら、ノコタ城がある丘を目指した。

「ねえ知ってる?ケント、むかしあのお城にはお姫様が住んでてね、ある日悪い魔女に石に変えられてしまったの、地下に閉じ込められたお姫様は百年後、王子様のキスで石から元の姿に戻るのよ」

「へえ~…そんなことが…」

「まあ私の想像なんだけどね?」

「何だよ…想像かよ」

「でもさ?凄くロマンチックよね~、ふふふっ♪、私にもそんな王子様が現れるかしら」

「そうだねぇ…なら石になって百年待たなきゃね」

「それはイヤだなぁ…」

「あっはっはっはっはっ!」

「むぅっ…笑わないでよっ」

二人はノコタ城に着くと、解放されている庭園でピクニックを楽しむ、バスケットに入っていたものは昨夜の残り物だったが、充分に美味しかった。

このノコタ城は観光用に建てられたもので、何の歴史も伝承もない、お城を模しただけの石の建物だった、前村長が建てたものではあったものの、今でも昔と変わらず、閑古鳥が鳴いていた。

その庭園でお喋りをし、寝転がって日差しに包まれる、ケントは大きく伸びをすると空を仰ぎ見た。

「良い天気だな…」

「膝枕してあげよっか?」

「ええ?…いいの?」

「いつもしてもらってるから…」

「そう…それじゃあ…」

メグの膝で瞳を閉じるケント、そのまぶたの向こうで、メグが言葉を囁いた…

「ねえ…そのままでいいから聞いて?、私ね…お守り作ったの、ケントにあげようと思って…、行くんでしょう?…修行に、だから…無事をお祈りしながら一生懸命に縫ったの、これよ…」

メグはケントの手にそっと、そのお守りを委ね、言葉を続けた

「頑張って行ってらっしゃい…、応援してる…私…、ずっと…」

「メグ…泣いてるの…?」

ケントが目を開けると、メグは涙を溢れさせていた、メグの膝から身を起こし、ハンカチを取り出そうと慌てるケント、そんなケントの胸にメグは飛び込んだ。

「もう!そのままで聞いてって言ったじゃない!…やだ…、嫌だよケント!行っちゃいや!…寂しいよ…ぐすっ…」

「メグ…」

ケントはメグの顔をじっと見つめ、優しく微笑むと、涙を指で拭ってあげた。

「メグ、僕からも渡すものがあるんだ…受け取ってくれるかい?」

ケントがポケットから取り出したもの、それは木彫りのブローチだった、それをメグにそっと手渡し、ニッコリと微笑む。

「ケント…」

「そんなものしか…あげられないけど…、メグ、僕は行くよ、遠く離れても、メグは僕の…可愛いメグだよ…」

「…それって…その…こくは…」

「…妹みたいなもんだからな…心配だけど…、遠く離れたって見守ってるよ?」

「い…いも…、……ケントなんて…もうっ、イモなんだから!」

「え…あれ…え?」

「もう!仕方ないから貰ってあげるわよ!、もうっ、ケントのイモ!イモケント!」

夕焼け空の下、家に帰る道中、ずっと言葉を交わさなかった二人だが、手はずっと握られていた、そしてメグを広場まで見送ると、ケントは優しく微笑み、別れを告げる。

「それじゃあ…また」と、振り向くケント、メグはそのケントの背中に言葉を投げた。

「ねえ、ケント…、いつ…旅立つの?」

「明日の朝には行こうかと思ってる…」

「そんな…急に…」

「荷物も少ないし、それに…行くなら早い方が良い…」

「……分かった、それじゃあ…木彫り小屋に…見送りに行ってあげる、私が見送ってあげないとね?寂しいでしょ?」

「……ありがとう…」

「それじゃあ、また…」

「うん…それじゃあ…」


別れがつらくなるから…見送りはいいと…、そう言えなかった…

手早く荷物を纏めて眠りに入る、でも、どうしても寝付けずに朝を迎えてしまった、駅馬車の中で眠れば良いかと、頭陀袋を背中に木彫り小屋の前に佇む

「あれ?」

小屋をじっと眺めていると、砂に汚れたメグの傘を見つけた、何でこんなところに?

そう悩む僕に、メグの声が聞こえてきた…

「ケント!」

その声に何度振り返ったことか分からない…、ずっと、何年も、その声を聞いてきた…

「ケント…、これ…」

彼女は僕にバスケットを手渡した、その中から、メグが得意とするクロスグリのパイの香りが漂ってくる

「メグ…これは…」

「途中でお腹が空いたら食べてね?、ああ…ええと、バスケットは帰って来たときでいいわ?、それがないと困るのよね?、ほら、学校の遠足のときとか、だから…忘れないでよ?」

「……ああ、分かった、忘れずに持ってくるよ」

「うんっ♪、それじゃあ…気を付けて」

「ああ、行ってくる!」



そう言って、僕はこの村に別れを告げた、駅馬車の中で食べたクロスグリのパイの味は、生涯…忘れることはないだろう…。


おわり

 一次創作置き場

2 Comments

八少女 夕  

No title

こんばんは。

読ませていただきました。
小さな村に育った孤児の青年が、広い世界と人生の目標を見つけて旅立っていくのですね。
村に残った幼なじみ、かつ、大切な女の子のことを想いつつ、きっとひと回り大きくなって戻ってくるのでしょう。
希望と戸惑いに揺れる青年の心持ちに、きゅんとしました。

企画のために新しい世界を創造してくださり、たくさん書いていただき、ありがとうございました。
お返しの掌編、どうするか少し考えますので少々お待ちくださいね。

素敵な作品でご参加いただきありがとうございました。

2017/01/18 (Wed) 06:11 | EDIT | REPLY |   

GT4948872  

Re:八少女 夕様

おはようございます、コメントありがとうございます!

さっそく読んで下さったのですね!ありがとうございます!、青年ケントの揺れる心情を感じ取って頂けて、そして…きゅんとして頂いて、凄く嬉しく思います、その辺の表現が実はすごく難しかったので…ええもう、感激でございます!

八少女様がどんな掌編をお返しして下さるのか、凄く楽しみでワクワクします!、楽しみにしてお待ちしております!

それでは、ご感想をありがとうございました :)

2017/01/18 (Wed) 09:09 | EDIT | REPLY |   

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